次、どこ行く? 旅に出たくなるウエブサイト|tabilover.jp

天使の湾で


このウエブサイトは読者の皆様のご支援により運営しています。
よろしければ、リンクのポストカードセットを購入していただけると嬉しいです!
tabiloverオリジナルポストカードセット

 

バハ・カリフォルニア、バヒア・デ・ロサンゼルス。
 スペイン語だとバイア・デ・ロサンヘレスとなるこの小さな町は、メキシコ・バハ・カリフォルニア半島の中央よりもわずかに北、カリフォルニア湾沿いに位置するリゾートだ。
 リゾートとは言っても、高層のタワーホテルが立っているような町ではない。ホテルやモーテルがあるにはあるが、どれも小さくて家族経営のようなごく小さなものだ。短いメインストレートにある店舗もごく少数。掘っ立て小屋のようなタケリアと小さなスーパーマーケット(イオンとかのレベルじゃなく、乾物屋くらいのサイズだ)があるくらいだ。
 ガソリンスタンドだけは、大きく立派で、近代的なのが2000年代に入ってできた。
 この町のなかでも、僕が最も気に入っているのが、町の南はずれにあるギルレモズという小さなレストラン&モーテルだ。庭先には、シーカヤックや、ボートで海釣りに出る人のためのランプ(ボートを下ろすところ)があり、その向こうにいくつも無人島が浮かんでいる。
 クジラやダイオウイカなどが生息していることで知られるこのカリフォルニア湾は、メキシコ本土とバハ・カリフォルニア半島に挟まれた広い内海だ。UNESCOの世界遺産に「カリフォルニア湾の島々と自然保護区群」として登録されているエリアでもある。
 この街のホテル、ギレルモで過ごす朝は、こんな感じだ。冷たい大理石の床に置かれたベッドから起き出して、ドアを開けると、朝日が反射して輝く静かな海が見える。波はないわけじゃないけどごくわずかで、まるでプールのような海だ。
 裸足にサンダルを突っかけたままでレストランに行き、朝ごはんを食べたいって言ってから、庭先にある東屋のテーブルに向かう。朝とはいえ、日向は日差しが当たって結構暖かいけれども、日陰に入ると思った以上にひんやりとした空気が感じられる。
 テーブルの足下では、ギレルモの番犬が寝そべってくつろいでいる。椅子を引いたら、面倒臭そうに少し移動して、またゴロンと転がる。

 眼の前の海のランプに、ボートをトレーラーに載せたトラックが近づいてきた。器用にバックでトレーラーを海に沈め、ボートを海に浮かべる。釣りに出るようだ。見るともなくそうした光景を見ていると、ウェイターが朝食を持ってきてくれた。豆の煮込みと目玉焼き、ベーコンのプレートにコーヒーとオレンジジュース。そして、温かいトルティアだ。
 ゆっくりと食事をとっている間に犬は起き上がってどこかに行き、自転車で集まってきた子どもたちが海に入っていく。腹いっぱいになった僕は、エアコンの効いた部屋に戻ってもう一眠りしたくなる。
 正直言って、こんな感じの朝が迎えられる場所は世界にいくらでもあるに違いない。でも、これまで結構いろんなところに行ってきたけど、ここに匹敵するくらい素晴らしい朝を迎えられたところは、ほかにはない。
 日本から行くのが難しいからこそ、そこにいることに大きな価値を見出してしまうのかもしれない。とはいえ、何度もギルレモに泊まってはいるのだが。
 泊まるたびに連泊したいと思っていたのだが、その夢がかなったのはつい一昨年のことだった。初めてここを訪れてから、30年近くたって、夢が実現した。
 その日は、60kmくらい南にある無人のビーチ、サン・ラファエルまでクルマで往復して、夕方にギルレモに戻ってきた。食事を済ませ、真っ暗な海に足を踏み入れると、太陽の熱を昼間しっかりと溜め込んだ海は、温泉かと思うかのような暖かさだった。でも、少し泳いで沖に向かうと、水が少しづつ冷たくなっていく。
 波の合間に仰向けになって、空を見ると、天の川がはっきりと見えた。人生にいくつかしかない、永遠に続いてほしいと思う、とても幸せな瞬間のひとつだった。

Guillermo’s Hotel


このウエブサイトは読者の皆様のご支援により運営しています。
よろしければ、リンクのポストカードセットを購入していただけると嬉しいです!
tabiloverオリジナルポストカードセット

About the Author

コメントする

You may also like these

tabilover